PUMA by MIHARA YASUHIRO、BEAMS Tからモダン・ファニチャーのCassinaまで、数々のブランドがコラボレートしているPS3ソフト『dress』。プロデューサーは『グランツーリスモ』シリーズの制作に携わり、あのこだわりのバイクゲーム『ツーリスト・トロフィー』の開発デイレクターとして知られている七澤崇聖氏である。元モーターバイク・レーサーでもある彼が挑んだのは、ファッションと新しいメディアの融合。遊びながらブランドに触れる、そんな『dress』を七澤氏の自宅にて一緒にプレイしつつ、Art Yard Informerのインタビューにお答えいただきました。
●『dress』のコンセプト・仕組みを簡単に説明してくれますか?

『dress』には大きく分けて2つのパートがあり、「触れる雑誌」のような形で作ったのですが、一つはリアルブランドを体験できるパートになっています。カタログが一番近いですかね。例えばPUMA by MIHARA YASUHIROというブランドと、BEAMS T というブランドが入っているんですが、PUMA by MIHARA YASUHIROさんの場合は、企画のかなり早い段階で参加を決定していただいたこともあり、このソフトを使っていままで誰もやったことの無いこととをやろうということで、発売前の09SSコレクションを収録させていただきました。BEAMS Tさんには、150を超えるTシャツを収録させてもらってます。BEAMS Tさんの商品は、ゲーム中から立ち上げられるブラウザでそのままオンラインのウェブサイトで買うこともできます。これがリアル・ブランドのパート。もう一方は、ゲーム内で自分のオリジナルとして作ったものを実際にオーダー出来るパート。大きく分けてこの二つのパートから成り立っていて、『dress』というパッケージになっています。
オリジナルで作る方は、グラフィックソフトで出来るようなことはだいたい出来ますし、プリセットで入っているイラストもファッション系の方々に『dress』専用に起こしてもらったデザインだったりします。もう一つ、Graphic Storeといって、音楽ダウンロードストアみたいに気軽にグラフィックを買えるストアが入っています。購入したものはどんどんソフト内に追加されていくというわけです。Playstation Store ではなく、IN GAME STOREといってゲーム内のGraphic Storeで購入できます。中には毎年ロック・フェスのオフィシャルTシャツを作っている方など、アーティストの方々にもイラストを提供していただいています。ユーザーがイラストを使って編集するので、そういったことを理解してくれたアーティストの方々なんですね。(氏が「風車」のデザインを選択する)これは企業とのコラボレーションですが、ここは風力発電をしている会社で、世界最小、最微風で発電が出来るという日本の会社です。他にもHONDAからは旧車のCBシリーズのアニバーサリー・デザインも…これですけど、たくさんありますね。
●これは…アツいですね(笑)かなり車種も沢山ありますね。
(笑)もともとバイクのゲーム(PS2 ツーリスト・トロフィー)を作ったりしていたので、そのつながりもありますね。
●ところで、数あるモチーフの中からなぜファッションを取り上げたビデオゲームを作ろうと思いましたか?
そうですね、例えば『dress』内にあるアイテムを集める場所も、敢えて「お店」ということじゃなくて、ブランドのアイテムを楽しみながら集めてほしいな、と思ってこういったアトラクションを作ったんですね。なぜかというと、お店を作るんだったらウェブのブラウザで済んじゃうじゃないですか。だけど、僕らがゲームを作っていて自分達でも一番びっくりしたのは、オートバイでも車でもそうなんですけど、「やって、触って、遊ぶ」と"刷り込み"が凄く深いんですよ。うちの開発チームのメンバーもそうですけど、触っていくとそのうちにどんどん覚えちゃって。インタラクティブに遊ぶことでアイテムの印象って深く入ってくるので。そういうものをメディアとして作れたらな、と思ったのがきっかけなんですね。
それと、作成したアイテムをゲーム内からネットワーク経由でオーダーすることができるんです。ウェブブラウザが立ち上がるので、プリントしてくれる業者さんの専用ウェブサイトからログインして注文すればアイテムは約1週間で届きます。一枚から注文できるので、僕も海外から来た友達に送ってあげたりとかしています(笑)いざこういうのを作ろうと思うと、今まではフォトショップを持っている友達のところに行ったりとかされてたとおもうんですよ。こう、コントローラを持って遊びながら質の高いデザインができてしまう、っていうのが一番やりたかったところなんですよね。
PUMA by MIHARA YASUHIROさんの場合は、かなり早い段階で参加を決めていただいていて、「どういうことしよっか?」という感じでデザイナーの三原さんと何度もブレスト(BS=brainstorming)しました。さらに、実は発売の6ヶ月前に、イタリアのトレードショーへご一緒させていただきました。PLAYSTATION 3を使って来期のコレクションを発表したデザイナーって、世界で初めてだったと思います。
そのプレゼンテーションの時点では、まだこのゲーム内のアトラクション部分は出来ていなかったんですが、バーチャルモデルがキャットウォークをしたり、ダンスをして、彼の商品をバイヤーさんに見せる、ということを行ったんですね。
●なるほど。
じゃあ実際にやってみましょう。このパートは(七澤氏がコントローラでミニゲームの画面に切り替える)さっき言ってた、遊びながらブランドのアイテムを集めてもらえるというパートです。今回、彼らのアパレルのテーマが、アーバン・モビリティーということで、それを上手く表現してアトラクションにしましょう、ということで作られています。
●これは6軸センサーに対応してるんですね?
そうですね…(カチカチカチ…) あっ!(ミニゲーム内でミスをする七澤氏)食べられちゃいましたね!(笑)このゲームをやりながら今回の春夏のアイテムを集めて行くんですよ。右上にスコアが出ていますが、こうやって遊びながら…うっ…(またもミスする七澤氏)
●(笑)
ミニゲームなんかは良い意味ですごく意外なことがやりたい、と言っていたんです。完全に裏切ったようなアトラクションにしたい、という三原さんのリクエストもあって。PS3だとなんだかとてつもない、こうハイテクなものが出てくるんじゃないか?と思わせておいて、こういうロー・ファイなものにしたいよね、と話していたんですよ。…(カチカチカチ)…うわっ(3度目のミス)
●実はやり応えがありそうなミニゲームですね…(笑)ゲーム・ウォッチを思い出しますね。
慣れると難しくないんですけど、割と腹立ってハマるんですよ(笑)…で、なんかこう…………(ガチガチガチ)…うわあ~っ!(七澤氏、4度目のミス)
●これ、書きますよ?(笑)
はははっ…あ、あぁ~っ!!!(ネコの鳴き声と共に5度目のミス)…ま、これが2009年の春夏のコレクションを集めましょう、というアトラクションですね。で、これがどんどんクローゼットにどんどん貯まっていって、自分で好きなようにコーディネイトしたり、お店に行く前にここでどんなのが良いかな?って見る事も出来るわけです。実は今世界中のPUMAのお店でこのデモが流れていたりするんですよ。
●では『dress』というゲームが作られた、実際の制作プロセスを教えていただけますか?
ゲームっていうのはまず、コンセプトを考えたり企画を立てて、プレゼンをしながらいろんなハードルを進んで行かないと、「本制作」に到らないんですね。なのでまずは企画を立ててプレゼンテーションをして、「作っていいですよ」、つまり「まず試作をしていいですよ」となるわけです。で、試作を作って良ければ本制作、という流れなんですけど、『dress』は企画そのものは凄く以前からあって、2003年くらいにはこういうものが作りたい、というのが頭の中にあったんですね。ただ、そう簡単には作れないので、その間に「グランツーリスモ」だったり「ツーリスト・トロフィー」を作りながら「チャンスが来たら作ろう」と思っていて。「ツーリスト・トロフィー」が発売したあとにまたプレゼンテーションをして、2007年の東京ゲームショウではじめて発表したんですよ。それから本格的に予算がおりて、チームメンバーを集めて、制作会社が決まって。ここが最初のステップです。今回一番大事にしたかったのは、アパレルブランドの実際の商品をどれだけ正確に再現するか、というところがポイントで。僕らは実際の服の構造からきちんとCGに起こす、ってプロセスにトライしたんです。
●なにか服をスキャンするような方法があるんですか?
実は、協力していただいた会社で大阪にデジタル・ファッションという3DCG上で編集したものを型紙に変換するというソフトをつくっている会社があって、「僕らはその逆をやりたい」、つまりブランドさんが持っている様々なデータを元にして、それをCGにしたい、ということを伝えたんです。それでその会社に協力していただくことになり、そのソフトを『dress』用にカスタムしながら最初のプロセスが始まりました。その後はただただ、ひたすら作って。ステージを作ったり。三原さんの春夏のデータとサンプルをものすごく早く頂いていたので、モデリングも早い段階でしていました。靴は実際にサンプルを頂いて、写真を撮影したりしながら作っていきました。
●なるほど。では、一般的にゲームの制作が決まるまでにいろんなアイデアがあるとおもうのですが、実際に制作に入るという条件にどういったものが多いでしょうか?
ソニー・コンピュータエンタテインメントという会社は、「見た事がないものを作ろう」という感じで、上司にもそういう気持ちを理解してくれる方が多いんです。ブランドさんのほうも、「そんな面白い事やってるの?やろうよ!」言ってくれたり。何度も何度もプレゼンをやって、一つづつハードルをクリアしていくわけですよ。色んな部署だったり、もっと上層部の方々だったり、ひとつひとつ、きちんとクリアしていきながら、試作をやって、次いこうか、と。ただ、新しいものに対して、「やってみようか」という人が多かったので。ブランドさんもすごく積極的にコラボレートしてくれましたね。
●そういえば、ゲーム内の家具などもCassinaが入っていたりしますよね?
そうなんです。メインのスペースのところに。それと、天井にあるシャンデリアもバカラのシャンデリアで、全部本物を入れているんですよ。そういったオブジェクトに近づくと、それらの特設サイトに飛んでいけるようになっています。欲しければそのまま本物が買えてしまうという。
●冒頭でおっしゃっていた「触って遊べる」カタログに近いものがありますよね。ではオープンなスタンスでいるブランドが集まって来たという感じですね。
そうですね。とにかくこういう企画は前例がなかったので、もう、僕が紙と映像を持って話しに行ったりしたんです。さっき言ってた一番始めに東京ゲームショウで発表した時の映像とかを持って行ったり。あと、クロス・シミュレーションといって、布を表現するデモを持って行って。技術デモのようなものです。
●ちなみに世の中でファッションに関する考え方は変わってきていると感じますか?
たぶん、変わって来ていると思います。僕らもブランドさんとコラボレーションしていく中で感じましたが、昔はどっちかっていうとあの雑誌のこの流行、とか、もしかしたら今でもそいういうことは続いているのかもしれないけど。でも、どのブランドさんも新しいツールを通じてダイレクトにお客さんとコミュニケーションを取ろうとしている、っていうところを感じますね。それと、デジタル、ってことにあんまり縁がなかった分野だと思うんですよ。縫ったり切ったりする世界だし。むしろデジタル化が遅れているんじゃないかな、と思っていたんですけど、逆に彼らのほうがそういうデジタルな事に対して意欲や興味があると感じました。
あと、いろんなアパレルブランドが、オリジナルのものを、つまり「自分だけの一着を作りたい」という個人の気持ちに結構応えようとしていますよね。カスタム・スニーカーから始まって、カスタムのアパレルとか、どんどん広がっている感じがします。ユーザーのほうは情報が沢山あるので、クチコミとか親しい人が「良い」って言ってるものを求めたりとか、ただただファッション雑誌だけにとらわれている感じはしませんよね。色んなコミュニティーの影響を受けながら買い物をしているなぁ、と感じます。
●なるほど。こういった新しいメディアもそんな方法の一つではありますよね。
この作品の前には『ツーリスト・トロフィー』というオートバイのゲームを作りましたが、その中で、実際にライダーのレーシング・ウェアやヘルメット、グローブ、ブーツなど、全部本物を入れたんですよ。で、それが凄く次のアイデアの元になったんですけども、(『ツーリスト・トロフィー』のプレイ中は)雑誌よりも、お店に行くよりも、はるかに気軽にウェアなどをコーディネイトして、「こっちの色のほうがいいかな?」とかを簡単にできたんですね。お店に行くと、ライディング・ウェアなんて特にそうなんだけど、重いしゴツイし、ヘルメットかぶるのもなかなか気軽にできないんですよね。で、『ツーリスト・トロフィー』の時のそのアイデアをファッションに応用したいな、って思ったんです。もしそれがウェブだけじゃなくて、3Dのキャラクタで出来るようになればいいな、と思っていたので。ちょっと早かった感じもありますけどね。でも、インターネットが出て来たころ、ものすごく夢のようなことができるんじゃないか?ってみんな考えたと思うんですよ。でも実際出来たことって意外と少なかったりするじゃないですか?「インターネットでビデオ会議」とかも、10年前から言ってたけど、実際に快適に出来るようになったのは10年くらい経ってからですよね。
●そうですね。そういえばあの頃、i visitなんかのビデオチャット・ルームが一部で流行した記憶がありますね。
だから、おそらくあと10年ぐらい経てば、こういう『dress』のようなものも、もっともっと身近になってくると思うんですよ。でも、他人がやる前にやりたかったんです(笑)誰かがやっちゃう前に。
●たしかに、それは重要なことですよね。
うん、だからこのタイミングで作ったから、ブランドの人たちも「おもしろい!」って言ってくれたのかもしれないですし、興味を持ってくれたのかもしれない。10年後にこれをやっても、もしかしたらブランドの方が先に作っているかもしれない。ブロードバンドがもっと進んで、データの行き来が軽く、簡単になっていけば、サッカーゲームとファッションブランドが一緒に組んで、自由なデザインのユニフォームを着てサッカーができるようになったりとか、いずれそういう世界に必ずなっていくと思うんですよ。間違いなく。
●そういえばPlayStation Homeとの連動が報じられていますが、他にもアップデートで追加されそうな機能はありますか?ユーザーから要望の多い追加機能などや、たとえばデザインのエディタの使い勝手などは?
そうですね、いまのところソフトがまだ出たばかりだし、ゲーム制作はとても時間がかかりますからまだ何とも言えませんが、もちろん僕はアップデートはやりたいと思っていますし、いろいろ、みなさんの反応次第ですね。今のところ掲示板などがないので、『dress』に対する要望なんかはインフォメーション・センターではいつでもそういうリクエストだったりというのは受け付けてるので。そちらから伝えていただければと思います。
●最後に、Art Yardの読者、そしてクリエイションに携わろうとしている若者にメッセージをお願いします。
僕が『グランツーリスモ』に携わってから、次に『ツーリスト・トロフィー』を作るまでに7年くらいかかってるんですね。作りたい、と思ってから。『dress』に関しても、5、6年掛かってるんですね、僕はぜんぜん天才ではないので(笑)「あきらめない」ってだけかな。よく上司に言われたんですが、そもそも完成すること自体が奇跡であって、リリースされることも奇跡だから。それだけで凄いことなんだよ、って。よく言ってもらっていて。みんなゲーム作りたい!って入って来ても、本当に自分の思っているゲームを作れるのは一握りですし、最後まで残る企画っていうのも多くないですし。さらに試作とかで消えて行くのもあるので、リリースに到るまでかなりのハードルがあるので、「あきらめない」。それしかないですね(笑)
End
PLAYSTATION®3オンライン配信専用
ファッションエンタテインメントマガジン
『dress』
PlayStation Storeにて好評配信中(2,000円税込)
※2009年4月30日まで、キャンペーン価格1,000円(税込)で販売中。












