THE PAINS OF BEING PURE AT HEART


●Art Yardのインタビューに登場いただいてありがとうございます。FUJI ROCK FESTIVAL’14への出演で来日されるそうですが、まずは日本の音楽ファンのために、キップ、あなたのバイオについて少し詳しくお聞きしたいと思います。THE PAINS OF BEING PURE AT HEARTをスタートさせる以前は、どのようにして音楽の世界に足を踏み入れましたか?

「僕の最初の音楽体験は、継父が持ってたトム・ペティのレコードを聴くことだった。特に80年代後半の『フル・ムーン・フィーヴァー』が好きだったな。より洗練された、凝ったサウンドで。ニルヴァーナが出てきたときには、仲間が聴いてた音楽をがらっと変えた――年上の連中はまだガンズ・アンド・ローゼズが好きだったけど、僕らの音楽的理想はニルヴァーナになったんだ。中学校(13とか14くらい)の頃、僕らは地下室にこもってギターとドラムでニルヴァーナの曲をやろうとしたり、自分たちの曲を書こうとしてた。基本的にはニルヴァーナの曲のコード進行の順番を変えただけだったんだけど。でもニルヴァーナがグレイトだったのは、僕らみたいなキッズがそれまで聴いたこともなかったような、いろんなバンドに注意を向けてくれたことだった――少なくとももっと年上になるまで普通聴かないような。たとえばティーンエイジ・ファンクラブやソニック・ユース、ビート・ハプニング、ザ・ヴァセリンズみたいなすごいバンドたち。それはやっぱり、ニルヴァーナがいつも彼らについて話してたからこそ、僕はそういうバンドを聴くようになったんだ。あと僕は高校の頃パンクやハードコアもたくさん聴いたんだけど、そういうシーンでもメロディックなバンドに惹かれた。チゼル(テッド・レオ)みたいなバンドがハードコアのライヴに出てきて、ものすごくキャッチーなモッド/ポップの曲をやるんだけど、彼の音楽の政治性やスピリットは、同じライヴに出てるもっと攻撃的なバンドと同じなんだよね。友達がソニック・ユースとペイヴメントのテープを持ってて、それをよくいっしょに聴いてたんだけど、僕はヨ・ラ・テンゴのアルバムを手に入れて――そのちょっと後に――ザ・パステルズとベル・アンド・セバスチャンも手に入れた。オレゴン州ポートランドの大学に進んだときは地元のバンドをたくさん聴いたな。The SoftiesやKissing Book、Dear Nora、Hutch And Kathy(のちのThe Thermals)、All Girl Summer Fun Band、あとはThe HunchesやThe Need、ごく初期のThe Gossipみたいなガレージっぽいのも。

レコード店に日本の雑誌の『米国音楽』が置いてあったんだけど、そこでは小さなインディポップ・バンド、ザ・プッシュ・キングスやザ・パステルズがまるでロックスターみたいに取り上げられてた。最高だったんだけど、値段が20ドル近くして。当時アルバムが二枚買えるくらいだったんだよね。でも雑誌には最高のミックスCDが付録でついてた。覚えてるんだけど、“The I Live The Life Of A Movie Star Secret Hideout(自分は隠遁した映画スターみたいに生きる)”っていうバンド名を見て、とにかく彼らがどんなサウンドなのか聴きたくてしょうがなくて。で、なんとポートランドのバンドだってことがわかって、大学の卓球室でライヴを開催して、彼らにプレイしてもらったんだ。そのあと僕はニューヨークに引っ越して、知り合いとペインズを始めた。誰も(カートは例外として)ミュージシャンじゃなかったんだけどね。僕はずっと、ミュージシャンとしての技能より曲のよさが大事なんだって思ってた――うまくなるのはいつだってできるから」

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●では新作『デイズ・オブ・アバンダン』について早速お伺いいたしますが、今作であなたたちが最も思い入れのある曲として『Eurydice』を挙げていますね。THE PAINS OF BEING PURE AT HEARTとしては、前作からの変化の兆しをどのように感じながらアルバムの制作をスタートさせていきましたか?

「このアルバムはエモーションの幅もサウンドの幅もぐっと広がったと思う。前作『ビロング』は一つのアイデアを10回やったようなレコードだった。それも素晴らしいことなんだよ――でもファーストやセカンドと同じことを繰り返すだけだったら、僕が考える「アーティストである意味」がなくなってしまう。これまでやってきたことが成功したから、数年ごとにできるだけうまくそれを繰り返すべきだ、なんて考えたら、シニカルだし、うぬぼれっぽいしね。僕はこのアルバムの歌詞とメロディに重みとパワーを持たせたかったし、曲に豊かさと美しさ、可能性を与えたかった。それがいいものでも悪いものでも、人間のエモーションの勢いをつかまえたかったんだ――ギターは明るくてクリーンなままにね」

●本作では実に様々なアーティストが参加しているかと思いますが、M3『Kelly』をはじめ、女性Voがフィーチャーされたトラックも華やかで印象的でした。あなたが思うに、女性ヴォーカリストとの楽曲制作はどのような魅力を感じますか?また、彼女たちについても、少し詳しく教えていただけますでしょうか?

「ジェン・ゴマ(アルバムの女性ヴォーカル)はA Sunny Day In Glasgowのメンバー。彼女が歌うのは去年見たんだけど、ジェンはA Sunny Day In Glasgowのベーシストのサイド・プロジェクト、Roman a Clefでヴォーカルをレコーディングしてた。カートの家でね。それで話すようになって、いっしょに何かやらないかって訊いたんだよ。彼女の歌で好きなのは、強さと弱さの両方を持つ声であること。“ライフ・アフター・ライフ”みたいな曲では――喪失と回復の物語なんだけど、その二つがあることがすごく重要なんだ。声を張り上げて歌える人は大勢いるし、ニュアンスをもって歌える人も大勢いる――でも彼女には優雅さがあって、二つのアイデアを同時に伝えられるんだ。そうするとその歌を聴く体験がもっと豊かになる。それに彼女ってすごくクールで、彼女といっしょにいるのが好きなんだよ。ペインズの理想にぴったりな人だし、彼女がこのレコードに参加してくれたことはほんとに嬉しい」

●録音や制作についてお伺いしますが、本作のレコーディング時に使用した機材の中で、お気に入りのものがありましたら教えていただけますでしょうか?シンセサイザーは特に楽曲に様々なスパイスを加えていると思うのですが、あなた自身、今作で特に音楽的・演奏的にチャレンジしてみた手法がありましたらお聞かせください。

「音楽的に加わったなかで一番重要なのは、ジェン・ゴマのヴォーカルだと思う。彼女の歌の温かさと力のおかげで、僕らの音楽がこれまで行けなかったようなところへ行けた。彼女がリード・ヴォーカルを歌う“ケリー”と“ライフ・アフター・ライフ”は、どちらも僕がこのレコードで大切にしてる瞬間なんだ。それに彼女のバック・ヴォーカル――“シンプル・アンド・シュア”や“エウリュディカ”なんかでは、僕一人で歌うよりもっと曲を高めてくれてる。ほかの楽器で言えば、カート(・フェルドマン)がシンセ部分のプログラミングで前より大きい役割を果たした。彼はほとんど全体がシンセで作られた、The Ice Choirのアルバムをレコーディングした直後だったからね。彼の知識が素晴らしいサウンド・テキスチャーを生むのを助けてくれて、それが“ビューティフル・ユー”や“シンプル・アンド・シュア”、“ケリー”みたいな曲で流れている。自慢するのはイヤなんだけど、僕のギター・プレイもうまくなったと思う。特に“マゾキスト”みたいな曲は自分でも気に入ってるんだ。あのギター・アルペジオはやり方を覚えるまでちょっと時間がかかったけど、いったんわかるとプレイしててすごく楽しかった。ちょっとだけロディ・フレイムになった気分、つまりいい気分になったね!」

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●レコーディングが行なわれたダニー・テイラーのHouse Under Magicについて教えて頂きたいのですが、ここはどのような場所なのでしょうか?本作におけるこの場所でのレコーディング作業の様子や、スタジオでのエピソードなどがありましたら教えて頂けますか?

「ダニー・テイラー(ZaZa)はポートランドで同じ家で暮らしてたころから親友なんだ。いっしょに音楽をやってきて、2009年には僕らのEP『ハイヤー・ザン・ザ・スターズ』をプロデュースして、彼のアパートでレコーディングまでやってくれた。だからダニーがホームスタジオをもっと整備されたロケーションに移して、いい機材を揃えたときに、それこそレコーディングするにはよりよい場所だと思ったんだよね。自分たちが友だちとくつろげるような。アルバムからそれが聞こえるかどうかわからないけど、僕らがいっしょに過ごした時間と、そこにいて気まずさのない環境のおかげで、アルバム全体に楽しさ、可能性がある感触が生まれたと思う。音楽自体はときにメランコリックだけれど、このアルバムを作る経験自体はたぶん、これまででベストだった。それに、スタジオに昔のゲーム機のGALAGAがあったから、僕はレコーディングしてないときにはそれで遊べたんだ――かなり上手なんだよ」

●懐かしいですね。では質問を変えて、現在のブルックリンのシーンではどういった音楽が盛んでしょうか?インディペンデント・シーンを含めて、あなたたちのホームタウンのカルチャーの魅力についても教えていただきたいのですが、最近注目しているものもありましたらお聞かせいただけますか?

「ブルックリンはクールだよ。ブリックリンに住む全員が、それがいかに“クール”になってしまったか、ケチをつけてるみたいだけど。ブルックリンのアンダーグラウンド音楽ファンはここ10年、むしろエレクトロニックとヒップホップに向いてると思う。もちろんそれもいいことだし、一つの表現方法だけを重く見るのはアンフェアだしね。285 Kentの閉鎖はいろんな意味で残念だった。あれはバンドがプレイする中心的なDIYスペースだったし、僕自身あそこで友だちとつるんで、楽しい時間を過ごしてきた。ちゃんとしたヴェニューでもあり、パーティ・スペースでもあったんだ。でも実を言うと、あの場所のサウンド・クオリティは最低だったし、アンダーグラウンド音楽という概念にとってマイナスだと思ってたな――アンダーグラウンド音楽の正統性はサウンドが雑で、悪くて、不明瞭なことにあるっていう偏見を強めることになってたと思う。もちろん、そんなの関係ないってバンドもたくさんいる――ハードコアやロウファイのバンドがプレイしたら、それでも楽しいからね。

でもThe Ice Choir(バンドメイトのカート・フェルドマンがやってるシンセポップ・プロジェクト)やAutre ne Veut(友だちのアドリーの最高のポップR&Bグループ)があそこでやると、いつも不満になっちゃって。彼らはレコードもミュージシャンシップも優れてるのに、ヴェニューがアーティストに応えられなくて、いつだってサウンドの問題がひどかったんだ。もちろん、ファックト・アップならいいんだよ――ファックト・アップはグレイトなバンドだし――でも僕の夢は、企業が金を出した商業的なスペースよりずっと音がいいようなDIYスペースができることなんだ。昔ながらのアンダーグラウンド美学がずっと根強く好まれてる理由が僕にはわからない。老朽化したものが、まだありがたがられてて。いや、汚いもの、古びて壊れたものが間違ってるっていうんじゃないんだ。それしかないなら。でも僕が心配してるのは、アンダーグラウンドなスペースには昔から資金がなくて、だからこそ見かけもサウンドも最低で、なのに、『だからこそすごいんだ』ってみんなが思いこんだんじゃないかってこと。そうしたスペースが重要でクールである理由は、無名でもクリエイティヴな人たちが演奏するチャンスを与えたり、同じ興味を持つ人たちが集まる環境を作ることにある――ペンキがはがれたり、サウンドが最悪だからからじゃないんだ」

●なるほど。一理ありますし、まさにその通りですね。ところで、アルバム・アートワークを担当しているLee Jinjuについてお伺いしますが、彼女の作品はあなたにとってどのような出会いでしたか?

「彼女の絵に出会ったときから大好きなんだ。あの作品をアートワークに使うのを許してくれて、本当に感謝してる。彼女の絵には、表面的な美しさと、その裏にある不安の感覚がある――少なくとも僕が最初にあの絵に向き合ったときの体験がそうだった。まず、二人の女性(もしくは同じ女性の二つの姿)の古典的なポーズに惹かれたんだ。一人は学校の机の上でまどろんでいて、一人は音楽を奏でてる。でももっとよく見ると、牧歌的という感覚を吹き飛ばすような要素がたくさんあるんだ。マスカラで黒くなった涙、割れた卵、こぼれた飲み物、汚れた生理ナプキン、ゴミ袋からは宗教像がのぞいている。いろんな意味で、最初の美しいイメージと不穏にさせる要素の対立が、今回のアルバムの印象とテーマを写しだしてるんだ」

●それでは最後になりますが、FUJI ROCK FESTIVAL’14を前に、あなたたちから日本の音楽ファンにメッセージをお願いします。

「日本でプレイするほど楽しいことってないんだ。日本に行くんだって言うだけで、友だちがみんな興奮してうらやましがる。バンドにとってはめったにない、特別なチャンスだから。だからそれを再度可能にしてくれた僕らの日本のファンには深く感謝してる。これからも日本には行きたいし、もうちょっと長い間旅してみたいな。素晴らしい国だから」

協力 : ビッグ・ナッシング

2014.5.7 ON SALE(日本先行発売)

THE PAINS OF BEING PURE AT HEART “DAYS OF ABANDON”

ザ・ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハート『デイズ・オブ・アバンダン』

■発売元: 株式会社ウルトラ・ヴァイヴ(http://www.ultra-vybe.co.jp/

■品番: OTCD-3723■定価: ¥2,200 + 税■その他: 解説/歌詞/対訳付

 

【収録曲目】

01. Art Smock / アート・スモック

02. Simple And Sure / シンプル・アンド・シュア

03. Kelly / ケリー

04. Beautiful You / ビューティフル・ユー

05. Coral And Gold / コーラル・アンド・ゴールド

06. Eurydice / エウリュディケ

07. Masokissed / マゾキスト

08. Until The Sun Explodes /アンティル・ザ・サン・エクスプローズ

09. Life After Life / ライフ・アフター・ライフ

10. The Asp At My Chest / ジ・アスプ・アット・マイ・チェスト

11. Impossible / インポッシブル*

12. Summer Of Dreams / サマー・オブ・ドリームズ*

13. The Real World / ザ・リアル・ワールド*

*日本盤ボーナス・トラック

 

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